2007年は「国際イルカ年」

会報No.137より

国連が宣言:2007年は「国際イルカ年」 
国際イルカ年2007

国際連合が今年(2007年)を「国際イルカ年」にすると宣言しました。

詳しく述べると、「国連環境計画(UNEP)」と「移動性野生動物の種の保全に関する条約(CMS、通称ボン条約)」が、「黒海・地中海・大西洋隣接地域鯨類保全協会(ACCOBAMS)」及び「バルト海・北海小型鯨類保全協会(ASCOBANS)」と共に、地球的規模でイルカを保護するために今年を「国際イルカ年」と宣言し、NGOのクジラ・イルカ保護協会(WDCS)と観光業界大手のTUIがこれにパートナーとして加わり、共に強く連携してイルカ保護のための活動を行なうことになったのです。

この「国際イルカ年」キャンペーンの後援者である、モナコのアルバート2世王子はつぎのように述べています。

「国際イルカ年の宣言によって、私たちは新たに海の生物多様性を守ることに関与する機会を与えられました。私たちが先導して働きかけることで、すばらしい海洋哺乳類たちを絶滅の危機から救うことができます。」

イルカを保護することは、イルカに棲みやすい環境を整えてイルカの生息地を保護することでもあり、そうしたプラスの影響は、すべての海洋生物に及びます。失われていく生物の多様性は、イルカの保護を通しても護られるといえます。

国連は、野生のイルカは「生きている宝」と認識

「国連環境計画(UNEP)」をはじめ、国際イルカ年を宣言した関係組織は、野生のイルカは地球上の「生きている宝」であると表現しています。
(参照:http://www.yod2007.org/

国連が、野生イルカの絶滅を危惧

昨年(2006年)12月に、中国の揚子江に生息するヨウスコウカワイルカの絶滅が確認されました。また、地球規模で野生のイルカの生息数が影響を受け、健全に保てなくなっていることが心配されています。理由は、さまざまで、混獲(漁業操業中に誤ってイルカが捕獲されてしまう、また、定置網にかかってしまう等)、有害化学物質による海洋汚染、生息域の破壊や質の低下、気候変動、漁業で乱獲することによる餌不足、漁網にかかってしまうこと、軍事用のソナーや音波を使った調査その他の人間の活動に起因する海中での騒音害、船舶との衝突、人間によるハラスメントなどが挙げられています。そして、そのなかに、故意による脅威として、イルカ猟が挙げられています。

こうした情勢をみて、「国連環境計画(UNEP)」は世界のイルカが、現在、生存の危機を迎えていると判断しました。そして、イルカにとって「静かできれいな海」及び保護海域や人々のイルカへの配慮が必要であると考え、野生のイルカに対する意識を高めようとして、今年を「国際イルカ年」と宣言しました。この活動は、一般のNGOや個人にも参加を呼びかけています。

国連の10ヵ年教育計画

「国際イルカ年」のキャンペーン活動は、国連の10ヵ年教育計画の一環として行なわれます。10ヵ年教育計画というのは、「国連持続可能な開発のための教育の10年」(United
Nations Decade of Education for Sustainable Development)と呼ばれ、元は日本が国連総会で決議案を提出したものです。2005年12月に46ケ国が共同提案国となり、満場一致で採択されました。こうして、2005年から2014年までの10年が「持続可能な開発のための教育の10年」となりました。なお、ここでいう持続可能な開発とは、「環境と開発とは相反するものではなく、共存し得るものであり、開発を行なう際には環境保全への考慮が重要である」という考え方をいいます。「国連環境計画(UNEP)」では、あらゆる国や地域において環境教育を行なう必要があると考え、「国連持続可能な開発委員会(CSD)」で議論が進められています。

また、世界的に生物の多様性が失われ、危機的状況に至っていることから、2010年までに生物多様性の減少を食い止めるために「2010年目標」がたてられています。国連による「持続可能な開発のための教育の10年」は「2010年目標」の達成にも貢献すると見られています。

国連によるイルカの保護は、以上のような背景があって、進められているのです。

日本政府と国連の認識の相違

今年が野生のイルカを保護するための「国際イルカ年」であることは、日本ではなぜか報道されていません。また、国連がイルカの保護のために活動していることも、日本では、余り知られていません。

国連はイルカを「生きている宝」に相当する野生動物であると考え、絶滅を危惧して保護に乗り出しています。いっぽう、日本では、イルカは農林水産省・水産庁の管轄下にあり、年間2万頭近くが政府公認の合法的漁業の一環として、日本の海域で捕殺されたり、生け捕りされたりしています。日本政府は、イルカを水産資源としてしか認識していません。こうした日本が行なっているイルカ猟は、国際的には、野生のイルカを絶滅に導く脅威のひとつとみなされています。

日本政府は、イルカの保護は、イルカの愛好者による感情的な活動にすぎないと考えています。しかし、実際には、国連がNGOとともに率先して野生イルカの保護のために活動しています。イルカやクジラは消費対象の資源としてではなく、生態系の重要な要である野生動物と認識され、共存及び保護の対象になっているのです。

日本政府が国連の常任理事国入りすることを望むなら、国連が先導して行なっているイルカの保護活動に参加することが必要です。「消費のための水産資源」という偏った考えで野生動物の捕殺利用を続ける限り、日本は国連の活動を妨げることになり、環境に配慮する先進国とはみなされないでしょう。これは日本の国益にとって望ましいことではありません。

用語ミニ辞典

「移動性野生動物の種の保全に関する条約(CMS、通称ボン条約)」:移動性の動物、例えば渡り鳥、クジラ、イルカ、ウミガメ、昆虫、トナカイなどの保護を目的とした条約で、1979年にドイツのボンで採択されたことからボン条約とも呼ばれます。2005年12月時点で95ケ国が加盟していますが、日本は未加盟です。

最新ニュース

 アメリカの歌手ニック・カーター(Nick Carter-元Backstreet Boys所属)が国際イルカ年の特別大使に任命されました。イルカを護るための新曲を作る話も持ち上がっています。

 

ページのTOPへ