イルカ猟・鯨種別捕獲枠数の見直し


 水産庁のリーダーシップによって、日本のイルカ猟に鯨種別捕獲枠が設定されたのは、1993年です。この設定については、研究者によって大きな疑問が出されました。そして、この捕獲枠設定は「科学的に計算されたかに装っているが、その計算の実際は、前年までの捕獲を正当化するために操作したに過ぎない」と考えられ、これは、日本の行政が「外部の批判者、とくに日本国内の批判者に対しては、合理的な証拠があるように見せることができ、漁業者には受け入れやすい捕獲であることの2点を満足させるため」に行なった設定だったと、厳しく批判されています。(「イルカ:小型鯨類の保全生物学」、粕谷俊雄著、東京大学出版会P.162) 

 1993年以来、十数年にわたって捕獲枠頭数の見直しはありませんでした。水産庁がこの捕獲枠の見直しを初めて行なったのは2007年です。この時、捕獲枠総頭数が294頭減らされましたが、決して、十分な見直しではありませんでした。

 この見直しで、和歌山県のスジイルカとアラリイルカ(=マダライルカ)の捕獲枠頭数は、追い込み及び突きん棒漁業の両方で据え置かれ、オキゴンドウの捕獲枠は沖縄県(突きん棒漁業)では、10頭から20頭の2倍に増やされ、和歌山県のオキゴンドウの追い込み猟捕獲枠は、40頭から70頭に引き上げられました。さらに、静岡県には新たに10頭のオキゴンドウの捕獲枠が新設されました。なお、静岡県、千葉県では、すでに1993年からスジイルカの捕獲枠を与えられていたにもかかわらず、10年以上まったくスジイルカの捕獲がありませんでした。しかし、こうした経緯にもかかわらず、引き続き、静岡県に63頭、千葉県に72頭のスジイルカの捕獲枠が割り当てられました。さらに、見直しが行なわれる前に、水族館にカマイルカの捕獲導入を望むかどうかのアンケートが行なわれ、水族館の賛意を募ったのち、静岡県、和歌山県、岩手県に対して合計360頭のカマイルカの捕獲枠(追い込み170頭、突きん棒190頭)が新たに追加されました。研究者が投じた疑問や批判が、まったく考慮されなかった見直しだったと言わざるをえません。

 この後、捕獲枠の設定は、毎年、捕獲頭数を減少する方向で修正され、2007年から5年目の2012年には、水産庁がかなりの時間をかけて、大幅な見直しを行ない、このため、2012年~2013年の捕獲枠の決定が該当年度(2012年)の11月にまでずれこんだそうです。以下に水産庁が発表したイルカ猟・鯨種別捕獲枠数を掲載します。

pdf_icon 2012年~2013年 イルカ猟・鯨種別捕獲枠数

今回の見直しについて:

*捕獲実績のない千葉県、静岡県のスジイルカの捕獲枠を、2017年にはゼロにするという決定は、水産庁の見直しの成果といえますが、これは、当然のことであり、対応が遅すぎるとも言えます。なぜなら、実質的に千葉県沖、静岡県沖のスジイルカは消滅したと発表されているからです。20年近く全く捕獲のない種(静岡県富戸では1993年から捕獲ゼロ)をイルカ猟の対象にすること自体が異常です。これは、スジイルカの捕獲を許可されている県が、与えられた捕獲枠頭数を超えて捕獲してしまったときに、千葉県または静岡県から捕獲枠を譲渡してもらい、違反を違反としないために残されているとも、考えられます。実際、2008年に和歌山県(太地)は、追い込み猟で60頭も枠を超過するスジイルカを捕獲し、千葉県と静岡県からスジイルカの捕獲枠譲渡を受けて、つじつまを合わせています。水産庁によると、譲渡は行なわれることがあるが、事前に行なわれるべきで、違反が判明してから譲渡したとすれば、それは認められないはずだといいます。一度発表された捕獲枠が、のちに訂正されていた事実から、事前譲渡ではない疑いが強いのですが、譲渡が違反捕獲の前か後かを証明する手立てはなく、この過剰捕獲は違反とは見なされませんでした。

 このようなことを考えると、捕獲実績がない県の捕獲枠は、即刻ゼロにしておくべきだと考えます。

*今回の見直しにおいても、全県で、カマイルカ、オキゴンドウの捕獲枠頭数は見直しが行なわれることなく、5年間据え置きとなり、修正されないことになりました。また、和歌山県のスジイルカ、アラリイルカについても、同様に据え置かれ、今後5年間見直されないことになりました。つまり、研究者が問題視した1993年の捕獲枠頭数が、そのまま継承され、2017年まで維持されることになります。従って、今回の見直しは、資源の安全な管理よりも漁業者の都合を考慮したものと言えます。

 1993年に設定された捕獲枠の問題点については、「イルカ:小型鯨類の保全生物学」(粕谷俊雄著、東京大学出版会)PP.159~162, PP.500~501に詳しく解説されていますので、興味のある方は参照してください■