図書紹介「クジラは いるかな?」


最近出版された児童向けの絵本を紹介します。イルカやクジラが好きな女の子が、水族館に行くのではなく、海でイルカやクジラを見ようと考えるお話です。

図書紹介:
「クジラは いるかな?」
(ジャキ・カーティス著、クリスチャン・サモン画)

イルカショーは、いつも見物客で賑わっています。大人も子供もイルカショーが大好きなようです。今、水族館で一番人気がある動物はイルカだと言っていいでしょう。しかし、そのイルカがどこから、どうやって、その水族館に来たのかを気にする人は、ほとんどいません。イルカは水族館に棲(す)んでいると思っている子供もたくさんいます。

この本の中で、ジャキのお父さんとお母さんは、イルカが棲(す)んでいるところは広い海だと、何度もジャキに言って聞かせます。イルカは、私たち人間と同じように、お母さんのお乳を飲んで育ち、私たちのように喜んだり、悲しんだりしながら、群れの仲間といっしょに生きています。水族館では、ショーの時などに、「イルカの○○ちゃんがやってきました」などと言っています。これを聞くと、まるでイルカが喜んで自分から水族館にやって来たように思えます。しかし、実際には、水族館のイルカは、人間によって捕獲され、家族から無理やり引き離されて、強制的に“連れてこられた”イルカなのです。そして、死ぬまで狭い水槽に閉じ込められ、家族にも、群れの仲間にも二度と会うことができません。野生では、イルカは30年以上生きると言われていますが、水族館では、ストレスのために短期間で死ぬイルカがたくさんいます。野生のイルカと水族館のイルカの寿命の長さについては、人によって意見が違いますが、私が調べた和歌山県にある水族館のイルカの平均寿命は、わずか4年3カ月でした。

野生のイルカが海の中で泳ぎまわる広さは、100平方キロメートル以上と言われています。これは東京ドームの2,000倍を超える広さです。東京都でいえば、大田区と世田谷区を足したくらいの広さになります。また、水族館でイルカが収容されている水槽の深さは、わずか数メートルですが、野生のイルカは600メートル以上も潜水できることがわかっています。

これだけを見ても、イルカが棲む環境は、水族館という建物や、入江や湾を仕切った囲いの中では、再現できないことが分かります。どんなに広く見える海の囲いや水槽でも、イルカにとっては、息がつまるほど狭くるしい場所なのです。

私は、この絵本を、多くの子供たちに見てほしいと願っています。お父さんやお母さん、または、幼稚園や学校の先生、あるいは年長のお友達が、子供といっしょにこの本を開いて、子供と会話してほしいと思います。できれば、野生動物の素晴らしさを、子供たちに話してあげてほしいと思います。水族館のイルカは、姿は同じでも、野生のイルカとは全く違う生き物です。ジャキは、死ぬまで家族と会えないイルカやクジラに同情し、自分がそうなったら、とても「さびしい」と考えました。そして、本物のイルカやクジラを、水族館ではなく、海で見たいと思いました。

この本に接した子供たちも、きっとジャキと同じように感じることでしょう。「かわいそう」だと感じる子供の気持ちを大切にしたいと思います。そうすることで、私たち大人も、子供のような素直な感受性を取り戻すことができるでしょう。私たち人間が、動物への同情の気持ちを「めめしい」こととして軽んじ、科学だけを盲信して我欲にとらわれ、野生動物の立場に立ってものを考えることを止めて以来、イルカを含めて、多くの野生動物が、人間の欲の犠牲になってきました。

すぐにイルカやクジラを見たいという気持ちを抑えて、「いつか海へ行こうね」と誘うジャキの決断は、感動的であり、海に生きるイルカやクジラにとっては、まさに福音と言えます。野生の動物は野生のままに置き、会いたければ、人間が邪魔をしないように気遣いながら会いに行く。ここにこそ、人間が今後、野生動物と共存していくための重要な鍵があると思います。この本を通して、日本にも、ジャキのような子がたくさん増えることを期待しています。

最後に、この本の日本語訳については、もう少し配慮がほしいところですが、内容的には画期的であり、クリスチャン・サモンの絵が、この物語を、よく引き立てていることを申し添えます■

この本は、 www.Xlibris.com/Bookstore または、 Amazon.co.jp から購入できます。また、書店で求めることもできるそうです。 ISBN(国際標準図書番号)は、日本語版が ISBN 978-1-4797-4798-6、英語版が ISBN 978-1-4797-4800-6です。