さぬき市宛要望書


香川県さぬき市宛
「イルカ試験飼育場」に対する意見とお願い

 2003年9月16日、計画中止を求めて本会がさぬき市へ送付した嘆願書です。

計画は中止されました! >> 詳細

2003年9月16日

さぬき市 市長 赤澤申也様
エルザ自然保護の会
藤原英司(会長)

拝啓

日ごろ市政にご尽力いただき、お礼申し上げます。

「イルカ試験飼育場」に対する意見とお願い

 本会は1976年に設立して以来、地球規模の自然、環境の保護を目指し、また、人間に搾取され、使い捨てにされている動物の保護を訴え、25年余り活動を続けている非営利の環境保護団体です。この度、さぬき市が、旧津田町のイルカ施設事業を引継ぎ、イルカのヒーリング施設の企画を存続し、推進していくことを考慮中であると伺い、この企画に対する本会の見解及びこの企画の問題点を以下に述べさせていただくと同時に、イルカ介在療法施設の存続計画を取り下げてくださるようお願い申し上げます。

さぬき市のイルカ施設におけるイルカ介在療法事業企画の問題点:

1)
このイルカ施設の企画が、イルカの生態を無視した劣悪な環境下での「生体実験」に相当するものであること。

 野生のイルカは、広大な海を時速25キロで1日に160キロも移動し、600メートル以上潜水できることが知られています。また、イルカは独自の群れをつくり、社会生活を営んでいる哺乳動物です。

 こうした動物を群れからむりに引き離して囲うことは、イルカの自然な生活を奪い、社会生活ができない状態にします。これだけでも、イルカへのストレスは想像を超えるものと考えられますが、試験飼育場の環境は、イルカが生きていくには劣悪すぎるものです。施設の海水の温度は夏には30度近く上昇し、冬には15-16度に下がるといわれています。海水温度の著しい温度差は、イルカの命取りになるほど深刻な問題です。さらに施設は、埋立地に近く、たびたび赤潮が発生しています。海水の透明度も低く、ビニール袋の放置なども見られます。「試験飼育」を継続するまでもなく、さぬき市の施設はイルカには過酷すぎる環境といえます。しかも、こうした劣悪極まりない環境下でイルカが生存できるかどうかを見極めるための飼育は、イルカに対しての「生体実験」、「虐待」に相当します。野生のイルカは少なくとも30年の寿命がありますが、この施設に入れられたイルカは、すでに今年に入ってから5頭のうちの2頭が、約半年の間に死亡しています。このことは、イルカがこの施設では生存できないことを示しています。

2)
施設が現在利用しているイルカ及び今後補充するイルカは、国際的な批判を浴びている「追い込み漁」で捕獲されたイルカであること。

 さぬき市の施設に入れられているイルカは、すべて和歌山県の太地で、「追い込み漁」によって捕獲されたイルカです。「追い込み漁」がイルカにとってどんなに過酷なものであるかについては、ぜひ同封したビデオ「日本のイルカ猟」(*)をご覧ください。これは静岡県の伊豆半島の伊東市富戸で行なわれた「追い込み漁」の映像ですが、その内容は太地で行なわれている「追い込み漁」とまったく変わりません。わずか10分のビデオですが、プロのカメラマンによって「追い込み漁」とはいかなるものかが克明に描かれています。その捕獲方法の凄惨さ故に「追い込み」によって捕獲されたイルカの輸入を禁止している国もあるほどです。

 本会には、さぬき市のイルカのヒーリング施設に反対する海外からのメールやファックスが相当数届いていますが、「追い込み漁」の悲惨さを訴えているメールが目立ちます。

(*)【注】イルカは魚ではありませんので、本会では「漁」ではなく「猟」の表記を使用しています。

3)
イルカの施設は野生のイルカの犠牲の上に成り立っており、施設を存続していくことは、野生の命の使い捨てを続けることになること。

 さぬき市の施設は、劣悪な環境下で狭い囲いにイルカを閉じ込め、不自然な生活を強いるために、イルカが過大なストレスを受けていますが、囲いこんだイルカが強いストレスに晒されることは、すでに1980年代半ばから国際的に指摘されており、こうした環境下ではイルカに異常行動がみられ、死亡率が高くなり、繁殖にも異常が起こることが公表されています。また、1997年には、国際海洋哺乳類協会が、囲われたイルカは、自然状態で生息するイルカより短命であるという調査結果を報告しています。イルカの施設でイルカが死亡すれば、当然のこととして、野生からの補充が行なわれます。イルカが死亡することが分かっていながら、施設を存続させ、野生のイルカを捕り続けることは、野生の命の使い捨てにほかなりません。 

4)
野生のイルカの使い捨ては、イルカの生息数を減少させ、種の絶滅を招く恐れがあること。

 さぬき市で利用しているイルカはバンドウイルカですが、現在、この種のイルカは、早急に絶滅の危機がある動物とは認められていません。しかし、ワシントン条約では付属書Ⅱに属する動物として国際的に保護されています。バンドウイルカは、群れをつくって社会生活を営んでいますが、少数のグループをつくることもあります。そして、このようなときに環境が悪かったり、捕獲などの負の影響を受けたりすると、種として相当な被害を受けることになり、例えば、数頭の群れからたった1頭が捕獲されても群れ全体の生存が危ぶまれる事態が生じる可能性があると考えられています。このことについては、ヨーロッパの調査で、生息数が年間6%も減少した例が報告されています。他方、日本の沿岸海域にいるバンドウイルカの生息数については、まだ調査が進んでいないため、はっきりしたことが分かっていません。こうした条件下で安易に野生のバンドウイルカを捕獲することは、近い将来に種の絶滅を招く恐れがあり、慎むべきことです。

5)
イルカが人を「癒す」能力をもっていることは、科学的に証明されていないという事実。

 施設に囲ったイルカが自閉症児やダウン症にかかっている児童、また、神経を病んだ人々を特別に癒す力があると報じられていますが、このことは、科学的にまったく証明されていません。一方、長い間神経を病んでいた人が野生のイルカに癒された例としては、ほんのわずかが知られています。それは、人間に拘束されていない野生のイルカが自ら人間に近づいてきて、人と交流したときに起きたものです。このことを報じたホラス・ドブス博士はもとより、以前イルカを囲って自閉症児や病んでいる人々を癒すことを試みていたベッツイ・スミス博士は、囲われたイルカが特別に人を癒すことはないと発言しています。

  人の心を和ませ、癒す力は、犬、猫、馬、小鳥など、人間の身近に生活している動物たち、また、私どもが目にする大自然の姿や、植物でも持っていることで、特別に野生動物であるイルカを利用する必要はありません。

6)
イルカと人がともに泳いで交流することに伴う弊害と危険性。

 イルカと人間が囲いの中で泳ぐことで、現在問題にされているのは、まず、両者間で、病気の感染が起こることです。このことについては、ご存知のように「人獣共通感染症」として各所で取り上げられ、関連書も出版されています。さらに、問題なのは、イルカがストレスによって異常行動を起こし、トレーナーやイルカと泳いでいる参加者に怪我を負わせる可能性が大きいことです。バミューダ、カナダでイルカが参加者に噛み付いて大怪我を負わせたという報告がありますが、日本でも、和歌山県太地町のドルフイン・リゾートで、女性客が後遺症の残るほどの大怪我をして、現在、裁判沙汰になっています。イルカと40年関わって生活しているイルカの専門家であるリチャード・オバリー氏は、イルカは強力な力を備えた野生動物であり、イルカと泳ぐことは、ライオンなど野獣と呼ばれる動物に近づくのとまったく同じことだと警告しています。

  さぬき市のイルカの施設を存続させれば、近い将来、この施設でも上記のような人身事故が起こることは、十分考えられます。

7)
イルカの犠牲の上に成り立つイルカ介在療法施設の営業面での問題点。

 イルカが自閉症児などを癒すことが証明されていないにもかかわらず、イルカを使ったさぬき市の施設では、「イルカ介在療法」と銘打って、障害で悩む人々を勧誘しています。そして、その料金は、かなり高額です。こうした施設の運営は障害児をもつ親の心理につけこみ、金儲け的な商法によって、利益を上げています。捕獲時にすでに激しい心的ストレスを受けたイルカに虐待を続けながら人が、「癒され、救われる」ことは不可能であることを、この施設に深いかかわりを持つさぬき市は認識すべきです。しかも、こうした商法に、市の予算を使うことは論外のことだと、私共は考えます。

8)
イルカの施設存続は、さぬき市の国際的な評価を著しく落とし、市の将来性を損ない、和歌山県の太地町と同様、動物虐待都市とみなされ、世界的な非難の的になる可能性があること。

 本会では、さぬき市の施設に関して、すでに海外の大手の自然、環境、動物保護団体、また、各国の個人の方々から多くのメールやファックスを受け取っています。そのすべてがさぬき市の施設の存続に反対するものです。もちろん、日本の方々からの問い合わせも続いています。日本の一地方の行政がこれほどの関心を引くのは、さぬき市のイルカの施設があまりに多くの問題を抱えていることによるためであり、「野生動物は野生のままに」保護したいという時代の要請に逆行する暴挙であるからです。こうした観点から、長い目で見た場合、さぬき市でイルカの施設を存続させることは決して得策とは思えません。

9)
地元の署名21,272ついての考え方。

 ご存知のように、さぬき友の会(旧津田友の会)が9月10日にイルカの施設の存続を願って21,272の署名をさぬき市に提出しました。しかし、この友の会で交換されているメールを読むと、署名をした多くの人々が、この施設に不安を抱いていることが分かります。特に、今年の8月に起こったイルカの死亡が人々の不安をかきたてています。また、賛同した関係者の話では9月はじめにおいて、地元で施設存続に賛同署名をした方は、わずか100名くらいだとのことです。しかも、その理由は、海をきれいに保ちたいからという環境保護のための賛同ということで、その方々には、イルカの死が繰り返される可能性が高いことやイルカのおかれた過酷な環境、イルカの生態、また、イルカを捕獲する際の「追い込み漁」の実態などは、まったく説明されることなく署名が集められたということです。私共は、もし上記の問題点や、利益追求の施設運営の実態が明らかになれば、多くの賛同者が署名を撤回する可能性があると考えています。現に、イルカの劣悪な環境に気づき、イルカの死亡情報を関係者が隠したという理由で、署名の撤回者が出ています。

 日本は野生生物の保護については、先進国よりおよそ30年は遅れているといわれています。さぬき市当局が世界の潮流に目を向け、賛同署名者の数に惑わされることなく、自らもイルカの介在療法の情報を集めて、その内容を十分検討され、また、さぬき市へ寄せられる海外からの研究者の意見を参考にし、英断をもって、この問題に的確な判断を下されることを期待します。

 以上、本会のこの問題に対する見解を述べさせていただきました。本会が指摘したさぬき市のイルカ施設の問題点を十分に御検討下さり、イルカ施設への来年度の予算計上を見合わせ、市の行政として、施設の存在を許さない方向で、この問題の解決を図られるよう御願いいたします。

敬具

同封物:10分ビデオ「日本のイルカ猟
– 水族館用・食肉用イルカ捕獲の実態」
(エルザ自然保護の会制作 1999年)

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