世界動物園水族館協会(WAZA)、日本動物園水族館協会(JAZA)及び、日本のNGO5団体による合同会議


2014年8月10日、予定通り合同会議が東京のスイス大使館で行われました。以下は、その報告です。

背景:

日本で合同会議をひらくことは、2014年3月にWAZA本部で行われたWAZAとスイス市民及びNGOの話し合いで決まりました。合同会議の議題は、「WAZAのメンバーであるJAZAが、追い込み猟で捕獲されたイルカの購入・売買取引を、WAZAのCode of Ethics(倫理規範)に従い、中止することに向けた話し合い」と事前に決まりました。端的に説明するなら、この合同会議は、WAZAの倫理規範に違反するイルカの追い込み猟からイルカを買ったり、そのイルカを転売したりすることを、JAZA加盟水族館に中止させる具体案を出し合って検討する会議ということです。建設的な話し合いをするためには、参加人数を制限する必要があるというWAZAの要望で、日本のNGOからの出席者は、5名(「海・イルカ・人」、「エルザ自然保護の会」、「全国動物ネットワーク」、「PEACE(Put an End to Animal Cruelty and Exploitation)」、「ヘルプアニマルズ」から各1名)に絞られました。当日、WAZAからは会長、この会議を進めた理事のジェラルド・ディック氏を含む3名、JAZAからは荒井一利会長、副会長等6名、それにスイス大使館から1名が参加して、総勢15名ほどの会合になりました。

突然の議題変更:

 まず、WAZAのジェラルド・ディック氏の“びっくり発言”で会が始まりました。これまで問題にしていた追い込み猟を、肉のための「捕殺」と水族館用の「生体捕獲」に分離して考え、イルカの追い込み猟による生体捕獲を認めるという発言です。じつは、当日の午前中にWAZAとJAZAが諸々の情報交換とイルカの追い込み猟についての話し合いを行ない、WAZAは、現在行われている生体捕獲は動物福祉の上で、問題がないと判断したと言うのです。しかし、「イルカの追い込み猟は、本当にWAZAの倫理規範に違反していないと考えているのか?」というNGOの質問に、ディック氏は「午前中の会議では、倫理規範に違反するかどうかの結論が出なかったため、分からないので、答えられない」と曖昧な回答をしました。

生体捕獲が問題ないと判断した根拠:

今回、太地でのイルカの生体捕獲が問題ないとWAZAが判断した根拠は、午前中にJAZAが示した複数枚の和歌山県太地町の畠尻湾での生体捕獲写真(太地町立くじらの博物館提供)とのことでした。JAZAの荒井一利会長は10年前に太地でイルカを捕獲したことはあるが、その後、追い込み猟を見る機会がなく、ディック氏はじめWAZAのメンバーも追い込み猟を見たことがないということでした。つまり、WAZAもJAZAも、実際に自分の目で確かめることなく、これまで追い込み猟の主役を担ってきた太地の提供資料だけで、問題ないと判断したということになります。しかも、この写真は非公開で、当日会合に参加しているNGOにも見せられないということでした。

これに対して、NGOからは、さまざまな反論が出され、実際に生体捕獲に立ち会って書かれた報告書(写真と共に残酷な捕獲を詳細に述べた報告)も提示されました。JAZAの荒井会長は、報告書について、「追い込みの頭数が多ければ、[残酷な捕獲は]起こりうることだ。今後は、こうしたことが起こらないように留意する」との回答にとどめ、それ以上の言及はありませんでした。

議題を離れて、話し合われたこと:

イルカの追い込み猟による生体捕獲がWAZAの倫理規範に違反しているかどうかについては、JAZAは、違反していないと考え、NGOは、違反していると考え、WAZAは結論が出せない状態で、意見がかみ合わず、結局、「倫理規範違反問題」は、懸案事項として残されました。このため、会議の大半の時間は、合同会議の前に行なわれたWAZA・JAZA会議についての報告に対して、NGOが質問したり、意見を述べたりするという形で進められました。見解の相違はあるものの、倫理規範にも関係する「動物の福祉」についても、話し合いが行われました。

JAZA・WAZAの主な主張:

JAZAの発言―――以下[ ]内は筆者の加筆

  • これまでWAZA・JAZA間では、十分なコミュニケーションがとれていなかったが、今回[午前中の会議で]、初めて良く話し合い、これまでJAZAが把握していないことがあったことがわかり、WAZAには迷惑をかけてきたことをお詫びした。また、JAZAから情報提供をした。[具体的には、2009年にとり決めた事項をJAZAが守っていなかったことへの詫びと今回JAZAが提供した追い込み猟の情報や生体捕獲の写真を指しています。]
     
  • WAZAからは、倫理規範を守るようにという指摘を受けている。JAZAにも倫理規定があり、JAZAはイルカの追い込み猟からの生体捕獲がWAZAの倫理規範に違反しているとは考えない。生体捕獲は、イルカを虐待していない。
     
  • 最近の追い込み猟の方法は、以前(静岡県の富戸で行われていたもの)とは違っている。動物福祉の点で問題はない。
     
  • イルカの追い込み猟には、日本政府、漁業者、漁協、派生業者、JAZA加盟水族館及び非加盟水族館、動物商、ふれあい施設等、多くの組織が関与している。
     
  • 2009年にWAZA・JAZAが取り決めた9月の追い込み猟(バンドウイルカの生体捕獲)について、WAZA・JAZA間に誤解が生じていた。2014年からは、9月に限って、追い込み猟で捕獲したバンドウイルカは、JAZA加盟水族館、太地町関連組織が生体捕獲したのち、余った個体は海に放流する。[詳細は、JAZA・NGO会議報告参照]このことについては、日本政府、漁協その他の同意を得ている。
    ―――WAZAの要求から言うと、これでは不十分だったが、これがJAZAとしては精いっぱいだった。
     
  • WAZA・JAZAは、中国へのイルカの輸出について、共通の懸念を持っている。この輸出にJAZA加盟水族館は関与していない。
     
  • JAZAはWAZAのメンバーだからWAZAの倫理規範の影響を受ける。(NGOから、「WAZAのメンバーとして倫理規範を守ることは必須であり、守らなければ除名すると明記されている。もっと重いものである」と反論がでる。)
     
  • WAZAからイルカの繁殖に力を入れるように強く言われている。

WAZAの発言

  • WAZAは野生動物の保護管理を目指している。グローバルな環境で野生動物保護、動物の福祉について意見を述べていく。[定番の挨拶]
     
  • 追い込み猟について、社会的な側面も考えて、イルカを助け、太地を助けることを考えていく。
     
  • 20年後も、[追い込み猟で]今の頭数をとり続けられるかを考えなければならない。アイディアを出しながら考えていく。ドルフィンウォッチング、ホエールウォッチング等[の方法があることを]、太地の人たちも知っている。方向転換もあり得る。
     
  • JAZA非加盟水族館も巻き込まなければ、イルカ猟による生体捕獲はなくならない。NGOに対して、政府に抗議すべきではないかとの問いかけ。(これに対して、NGOからは、NGOは政府に対しても働きかけている。要は、まず、JAZA加盟水族館が中止に向かうことが先決だとの反論がでる。)
     
  • イルカの追い込み猟は ”not a happy thing”(思わしいことではない)が、複雑で、団体、組織が関わっている。また、追い込み猟の方法も変わってきている。捕殺と生体捕獲を分けることで、福祉問題に対応できる。
     
  • イルカの追い込み猟は合法的に定められた捕獲枠内で操業されている。また、生体捕獲はストレスを最も少なくする方法で行われており、動物福祉に違反していない。
     
  • WAZAの加盟水族館で、太地の追い込み猟からイルカを買っている水族館はない。ただし、転売されてWAZA加盟水族館で太地で捕獲されたイルカが飼育されているかどうかについては分からない。
     

合同会議で明らかになったこと:

以上、主だったWAZA、JAZAの発言を列挙しましたが、総合して次のことが言えます。つまり、WAZA・JAZA間の話し合いで、WAZAは、これまでのイルカの追い込み猟に関する見解を大きく変え、捕殺と生体捕獲を区別することを条件に、追い込み猟からの生体捕獲を容認しました。WAZAは、野生動物の保護を謳いながらも、野生動物の生体捕獲には、同意しているということです。また、太地の追い込み猟からの生体捕獲を容認することで、JAZA加盟水族館だけでなく、非加盟水族館やイルカの捕獲転売を営む業者にも、生体捕獲のお墨付きを与えたことになり、事実上、動物福祉の遅れが懸念されている中国へのイルカの輸出を助長する結果となりました。さらに、このことは、日本近海のイルカ類に多大な影響を与える結果ももたらしました。WAZAの認識の甘さが露呈されたと言えます。

イルカの追い込み猟そのものについても、「倫理規範に違反している」というこれまでのはっきりした見解を、「おもわしくないこと」(not a happy thing)と述べるにとどめ、生体捕獲も含めて、「イルカの追い込み猟がWAZAの倫理規範に違反しているかどうかは、分からない。結論がまだ出ていない」と回答しました。そして、「イルカの追い込み猟は日本政府や太地が関係する複雑な社会問題を抱えている」ことを挙げ、早急に解決できないとしています。

今回、WAZAは追い込み猟の中止や2年間のモラトリアムを提案するなど、問題解決にむけて、努力したように思われますが、結局はJAZAに大幅に譲歩して、懸案を棚上げしたまま帰国しました。

一方JAZAは、「捕殺と生体捕獲をきっちり分けて行う追い込み猟の生体捕獲は、動物福祉の点から問題がなく、WAZAの倫理規範には抵触しない」という考えです。これまでの動物福祉に反する生体捕獲を認めたうえで、今後は、動物福祉に留意して生体捕獲を行なうとしています。

NGOの考え及び合同会議の成果:

NGOの立場で発言すれば、イルカの追い込み猟は、まさに野生動物への虐待であり、動物の福祉とは対極にあるものです。外洋でイルカをパニック状態にして湾に追い込む方法からしても、また、追い込んだイルカを強制的に捕獲することについても、イルカに激しいストレスを与えることは明らかで、鯨類研究者も捕獲後のイルカの死亡率が6倍に跳ね上がると指摘しています。

しかも追い込み猟を行うのは、これまでと同様に太地の漁師です。同一人物が同一の場所で、これまで通りの漁具を使って追い込み猟を行うのです。これまで長年にわたって動物の福祉に反する残酷な方法でイルカを殺し、また、生け捕りしてきた漁師に、福祉に配慮した捕獲をするように求めること自体、無理な話です。また、2014年9月から改善されるという生体捕獲について、それを監視する機関がありません。

WAZAは20年後の野生のイルカ不足を懸念しています。しかし、「問題解決への進歩が遅い」のは仕方がなく、日本政府が捕獲枠を決め、それに従って捕獲しているのだから当分はイルカを捕り続けても大丈夫だろうと考えています。しかし、現行の捕獲枠には、設定の仕方にも、その運用の仕方にも問題があることを考慮に入れていません。(参照:イルカ猟・鯨種別捕獲枠数の見直し)捕獲枠に従って捕獲していても、決して安心できる状態ではありません。

こうしたことも含めて、NGOの参加者からは積極的な発言があり、反論、意見、提案も出されました。しかし、合同会議は、多くの懸案を残したまま終了しました。

合同会議の結果は、決して満足のいくものとは言えませんが、NGOがWAZA、JAZAとイルカの追い込み猟について一同に会して話し合ったのは、歴史的に見ても、今回が初めてのことであり、それなりに意味のあることでした。見解の相違がはっきりしたことも、顔を合わせてWAZA、JAZAの見解を生の声で聞けたことも、今後の参考になりました。また、見解の違いを超えて、太地の追い込み猟について、問題点が明らかになり、同時に、NGO側だけでなく、WAZA、JAZAも「太地のイルカの追い込み猟には問題がある」という認識を共有していることもはっきりしました。そのうえで、会議の最後に、「追い込み漁問題を建設的に解決するために今後も継続して、WAZA、JAZA、NGOが協議を行うこと」が、参加者全員の合意で決まりました。また、会議中、JAZAの荒井会長の承認によって、後日にJAZAとNGOの話し合いを行うことが決まりました。JAZAとの話し合いは、会議に参加した全NGOが望んでいたことでした。この会議での最大の成果といえます■

参考:
世界動物園水族館協会(WAZA)、日本動物園水族館協会(JAZA)及び日本のNGOとの3者会談が実現します

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