日本動物園水族館協会(JAZA)とNGOの会合


今年(2014年)8月28日、千葉県の鴨川シーワールドで、日本動物園水族館協会(JAZA)とNGOの話し合いが行われました。参加者は「海・イルカ・人」、「エルザ自然保護の会」、「PEACE(Put an End to Animal Cruelty and Exploitation)」、「ヘルプアニマルズ」から各1名、それに、JAZAからは荒井一利会長1名の総計5名による話し合いでした。スイス大使館で行われた8月10日のWAZA・JAZA・NGO合同会議では、時間不足のため、主にWAZAの説明や意見を聞くことに時間を割いたため、改めてJAZAから「イルカの追い込み猟と水族館との関わり」及び「WAZAとJAZAの関わり」等について詳しい説明や意見を伺いました。以下に、NGOが当日、説明を受けた概要を報告します。

最初の説明: WAZAとJAZAのコミュニケーション

 荒井会長から、追い込み猟に関するWAZA、JAZA間のコミュニケーションの経緯について、以下のような説明がありました。

 「2004年、世界動物園水族館協会(WAZA)の総会で、追い込み猟から捕獲したイルカを日本動物園水族館協会(JAZA)加盟園館に入れてはいけないという採決がされた。しかし、JAZAに対する事前の協議はなかった。2007年、WAZA会長とWAZAの倫理福祉委員会スタッフが来日して会合をもったが、進展のある話し合いにはならなかった。JAZAはWAZAの採決は不当で無礼だと考えていた。2009年、Dr.Dickを含むWAZAのスタッフが成田に来て、話し合いをもったが、事前に話がなく、準備不足だったため、曖昧な情報を与えてしまい、誤解が生じた。(
 以上で分かるように、これまでWAZAとJAZAの間では、コミュニケーションが良く取れていなかった。だが、今回2014年8月10日に、初めてきちんと話し合い、意思の疎通が図れた。今後もコミュニケーションがうまくとれるように努力していく」、とのことです。

(*)2009年にWAZA、JAZA、名古屋港水族館が関わって決めた「イルカ管理実施要領」の解釈についてWAZA・JAZA間に解釈の違いがあったことを指します。この時、すでに追い込み猟を食用捕殺と生体捕獲に分離する事が決められましたが、生体捕獲できるイルカの種や、その実施期間について、WAZA・JAZA間に大きな解釈の違いがあり、それが5年間も放置されていたというわけです。今回、2014年8月10日のWAZA・JAZA午前中会議で、改めてこの“分離方式”が再確認された事になります。

イルカの追い込み猟を、肉のための「捕殺」と水族館用の「生体捕獲」に分離:

イルカの追い込み猟を、食肉のための「捕殺」と水族館用の「生体捕獲」に分けるために、以下のことが、8月10日のWAZA・JAZA午前中会議で検討され、決められました。JAZAの荒井会長によれば、この取り決めは、今夏(2014年7月4日)、太地町で行われた「第18回日本動物園水族館鯨類会議」で、太地町の漁師・漁協によって提案されたもので、日本政府も同意しているとのことです。

2014年9月に始まるイルカの追い込み猟の生体捕獲について:
9月の1ケ月に限っての取り決め:

9月に生体捕獲される対象となるイルカの群れは、小さな群れとは限らない。群れのサイズによる差はなく、大群からでも捕獲が許可される。バンドウイルカの購入権利は、JAZA加盟園館及び太地に根拠をおく「太地町開発公社」、「ドルフィンべエイス」、「ドルフィンリゾート」に限る。JAZA非加盟園館は、購入できない。生体捕獲後、残った個体は、海に返され、食用にはされない。
上記の条件は、バンドウイルカのみに適用され、他種には適用されない。

10月以降の取り決め:
JAZA加盟園館及びJAZA非加盟園館によるバンドウイルカの生体捕獲:

太地町の漁業組合がJAZA加盟園館用と判断して、小さな群れを捕獲する。群れのサイズに厳密な基準はなく、あくまでも漁業組合の判断にゆだねられているが、おおよそ20~30頭の群れと荒井会長は判断している。捕獲されたイルカは畜養場所に運ばれ、まず、JAZA加盟園館が購入する。余ったイルカについては、JAZA非加盟園館(上記の太地に根拠をおく3団体を含む)にも購入権利がある。JAZA非加盟園館が購入後、イルカが余れば、残ったイルカは海に返され、食用とはされない。
上記の条件は、バンドウイルカのみに適用され、他種には適用されない。

太地町の漁業組合がJAZA加盟園館用と判断しなかった群れは、JAZA加盟園館に購入権利はなく、JAZA非加盟園館だけが購入できる。残った個体は食用となるが、場合によっては海に返すかどうかは、あくまでも漁業組合の判断による。
これらの条件は、バンドウイルカの猟期が終了する翌年2月末まで続く。

以上を端的にまとめると、

  • バンドウイルカ以外のイルカについては、従来通りで、変更がありません。つまり、これまでと同様に、イルカは大きな群れから、多大なストレスを受けて水族館用に生体捕獲され、しかも、水族館用にならなかった残りのイルカは、食肉用に殺されます。
  • バンドウイルカについては、JAZAの加盟園館が購入する場合にだけ、水族館用に生体捕獲後、残った個体は、食肉用に殺されることなく、海に返されます。JAZAの加盟園館が関わらない生体捕獲は、従来通りで、イルカは大きな群れから、多大なストレスを受けて捕獲され、水族館用にならなかったイルカは、食肉用に殺されます。この時、イルカを海へ返すかどうかは、太地町の漁業組合の判断に任せられています。

 なお、生体捕獲時に「バンドウイルカに与えるストレスを少なくするため」という名目で、小さな群れから捕獲するのは、10月以降で、9月中のバンドウイルカの生体捕獲は、従来通り、大きな群れからの生け捕りになります。

生体捕獲数に上限はない:

「生体捕獲については、上限などは設けられていない。水産庁発表の捕獲枠内であれば、何頭でも捕獲できる」とのことです。

親子のイルカの扱い:

「JAZAとしては、親子のイルカは購入しない。親子のイルカは捕獲しないように、JAZAが太地の漁師に要求している。水産庁も、そのように指導している。漁師も、そのように努力しているが、これからも、さらに、努力していく」とのお話でした。

なお、親イルカだけ捕獲して、子イルカを海に放しても、イルカの子は生きていけません。子連れの親イルカを捕獲対象にしないということは、動物保護の観点から当然の事と言えます。

JAZA加盟園館による生体捕獲:

現在、JAZA加盟園館が生体捕獲を希望するイルカ数は年間約20頭、あるいは20~30頭で、要望通りに購入することは可能だということですが、過去には、要望する条件に合うイルカが捕獲されないために購入できない年がかなりあったそうです。

太地では2000年~2011年の12年間で、804頭のバンドウイルカが生体捕獲されています。(2004年の静岡県富戸の生体捕獲15頭を入れれば、819頭になります。)これは年間67頭に当たります。しかし、ここ数年(例えば、2007年から2011年の5年間)で425頭(年間、85頭)に増え、さらに増える傾向があります。実際、2010年には、168頭ものバンドウイルカが生体捕獲されています。

上記から見ると、JAZA加盟園館が捕獲するイルカの数は、総生体捕獲数の20~30%位だと言えます。一方、総生体捕獲数の80~70%は、JAZA非加盟園館が購入したり、輸出したりするイルカだということになります。こうしてみると、JAZAは太地漁協にとっては、たいした儲けにならない顧客だと言えます。太地町の漁協が多少なりとも譲歩した背景には、バンドウイルカの肉の不人気に加えて、こうしたことも影響しているようです。

なお、参考までに、他種も含めた生体捕獲は2000年~2011年の12年間で、1082頭(年間90頭)、2007年から2011年の5年間で605頭(年間121頭)に及びます。太地町で生体捕獲が急激に増えていることが分かります。

8月10日のWAZA・JAZA・NGO合同会議で、WAZAのDick氏は、会合に参加したNGOがWAZA、JAZAに対してではなく、まず非加盟園館に強く働きかけるよう迫りましたが、これは、少々的外れです。「自分たちだけがNGOの批判に晒されるのは不当だ」と考えるのではなく、まずは、世界及び日本のリーダー的存在であるWAZA、JAZAが、加盟園館と共にイルカの追い込み猟の実態を把握し、野生のイルカの搬入数を減らし、「イルカの福祉」について考慮する努力をするべきだと考えます。そうした努力を示してこそ、初めて非加盟園館への説得力が出てくると言えます。会合に参加したNGOは、「イルカの福祉」のために、すでにWAZAに対して協力を申し出ていますし、また、この度のJAZAとの会合でも、JAZAに対して協力を申し出ました。

この度、WAZA(世界動物園水族館協会)、JAZA(日本動物園水族館協会)共に、非加盟園館に働きかけることは難しいとしながらも、イルカが置かれている現状に目を向け、特に、非加盟園館によるイルカの輸出が増加していることを憂慮し、今後の課題として、非加盟園館への対応を考えると述べたことは、評価できることであり、期待がもてます。

監視機関:

 生体捕獲について、取り決めが守られているかどうかのチェック機関が必要です。当面は、太地町立くじらの博物館が監視機関になるとのことです。荒井会長は、JAZA加盟園館が関わる生体捕獲に関しては、JAZAがチェックしていきたいと考えているそうです。しかし、本来、監視は利害関係のない第3者機関が行なうべきであり、監視をどう行なっていくかは、今後の懸案として残されています。

動物福祉の観点から見たイルカの生体捕獲:

JAZAの考えでは、「従来通りの大きな群れからの生体捕獲は、捕獲されるイルカにとって苛酷なものになり得ることは、理解できる。しかし、少数の群れから小分けにして捕獲していけば、問題はなく、イルカにとって苛酷な捕獲とはならない」としています。また、イルカを音で脅して、沖から湾内に追い込むやり方については、WAZAから反対意見は出されなかったそうで、今後も従来通りの方法がとられるそうです。荒井会長によれば、追い込み猟は、「水族館が生体捕獲するにはよい方法である」と考えているとのことでした。

大きな群れからの従来の生体捕獲がイルカにとって苛酷であり、動物の福祉に反するという点では、JAZAとNGOの意見は一致しましたが、私たちNGOは、沖からイルカをパニック状態にして湾内に追い込むこと自体を動物福祉に反すると考えています。また、水族館が館内でイルカを大事に扱っているかどうかには関係なく、野生動物であるイルカを力ずくで群れから引き離して、自由を奪い、狭い水族館の水槽あるいは生簀に閉じ込めること自体が、イルカにとって苛酷であり、動物福祉に反していると考えています。

水族館が考えている、いわゆる「動物福祉」と言われる観点だけから言えば、イルカを人間の都合で利用することは、別に問題ではなく、ストレスを最小にすることが最重要事であるわけで、水族館の考えと、私たちNGOが主張する「野生のイルカに自然環境のなかで生きる権利を認めよう」という考えとは、根本的に違いがあります。しかし、そうした中で、イルカの生態を考慮しつつ、できる限りの接点を見出して、イルカの現状を少しでも改善する努力が必要とされています。少なくとも、動物福祉の5原則(**)については、水族館側のさらなる配慮が必要だと言えます。

(**)動物が精神的にも肉体的にも健康で、苦痛なく、快適な環境を与えられ、幸せであることを指し、動物福祉の5原則として、次のことが挙げられています。○1飢えと渇きからの自由、○2不快からの自由、○3苦痛、負傷、疾病からの自由、○4恐怖や抑圧からの自由、○5正常な行動を表現する自由(その動物らしい自然な行動をとる自由)―――参考までに5原則をすべて充たしてイルカを飼育している水族館は、1館もありません。5原則を充たしてイルカを飼育すること自体が、不可能だからです。

水族館におけるイルカの繁殖率と追い込み猟の関係:

 JAZAは、WAZAから、イルカの繁殖率を上げるようにプレッシャーをかけられているそうですが、日本の水族館におけるイルカの繁殖は、大変遅れているそうです。アメリカの水族館では繁殖個体数が70%になっていますが、日本では20%以下だそうです。イルカの繁殖率が高いことで知られる鴨川シーワールドでも50%くらいとのことです。日本でイルカの繁殖率が低いのは、多くの水族館施設に繁殖専用プールがないことが原因だそうです。また、日本では追い込み猟からイルカを入手できることも、繁殖が進まない原因になっているとのことです。水族館でイルカを繁殖させれば、野生のイルカの搬入数を減らすことができるかもしれません。しかし、水族館でイルカを増やして展示したり、ショーに使ったりするために、イルカの繁殖率を高めることには、それはそれで、また、別の問題が生じてきます。一概に繁殖率を高めればいいということにはなりません。

鴨川シーワールドの繁殖専用プール

鴨川シーワールドの繁殖専用プール

今後の対応:

細部の認識に違いがあるとはいえ、動物を大事に思う気持ちは、水族館の職員も、NGOも同じなのですから、それを共通点として、意見の違いで対立に走るだけでなく、立場が違うからこそ、お互いに気付くことがあるという観点から、今後、WAZA、JAZAには、建設的な提案をしていきたいと考えています。

 今回、JAZAとNGOの会合が実現したことは、大変意義のあることでした。JAZAの荒井会長には、会合の当日、十分な時間を割いて頂き、また、ご多忙の中、事実確認の書状に、迅速で丁寧なご回答を頂きました。改めて荒井会長にお礼を申し上げたいと思います。また、荒井会長には、イルカ追い込み猟について問題が生じた時の窓口にもなって頂いております。

イルカの追い込み猟については、WAZA、JAZA、NGOが共に認識している懸案が多々あり、イルカの福祉には、ほど遠い現状です。しかし、時代の流れ、国際的な動向に後押しされ、きわめてゆっくりですが、状況は変わりつつあります。スイス大使館、次いで鴨川シーワールドにおいて開かれたWAZA、JAZAが関わる二つの会合で明らかになった懸案を解決していくことが、今後の課題となります■

kamogawa-2

オルカ用の水槽:人間の目には、海と一体化して広く感じられるが、
オルカにとっては狭すぎる。

「イルカ猟」の表記:
新聞報道などでは、「イルカ漁」という表記が使用されていますが、本会では「漁」ではなく「猟」の表記を使用しています。イルカは空気呼吸と授乳育児を行なう哺乳類で、魚ではないからです。

  • WAZA、JAZAに関わる会合に参加した「PEACE」、「海・イルカ・人」による報告記事は、上記団体の各ウェブサイト上に掲載されています。合わせてお読みください。

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