太地産ゴンドウクジラの水銀汚染
2007.9.18 up
太地産のゴンドウクジラに暫定規制値を上回る水銀汚染
会報136号(2007年3月30日発行)でお知らせしたように、本会の調査で太地の追い込み猟で捕獲されたゴンドウクジラの肉に、日本政府(厚生労働省)が定めた暫定規制値の約10倍の水銀が検出されました。
いっぽう、同年(2007年)5月及び6月に太地町の山下順一郎町議会議員が行なった調査でも、地元で販売されている太地産のゴンドウクジラの肉に厚生労働省が定めた暫定規制値の10倍を超える水銀が検出されました。検出された水銀、メチル水銀、PCBの詳細は、以下の通りです。
総水銀 | メチル水銀 | PCB | |
5月10日加工の生肉 | 4.0ppm | 3.1ppm | 0.27ppm |
6月10日加工の生の腹肉 | 6.39ppm | 3.6 ppm | 0.66ppm |
★日本の暫定規制値 | 0.4ppm | 0.3ppm | 0.5ppm |
5月の検査結果では、PCBは規制値以下ですが、総水銀とメチル水銀は規制値の10倍が検出されています。
6月の検査結果を見ると、総水銀は規制値の16倍、メチル水銀は12倍、PCBは規制値を超えています。
山下議員が続いて7月に行なったゴンドウクジラの尾身の検査では、さらに規制値を大幅に上回る検査結果が出ています。
上記のことから言えることは、ゴンドウクジラの肉の水銀汚染、あるいは、PCBその他の有害物質による汚染は、個体によっても、その個体の部位によっても違いがあり、スーパーで売っているパッケージを見ただけでは、肉の汚染度がまったく分からないということです。つまり、ゴンドウクジラの肉を食べる限り、いつでも規制値を大幅に上回る汚染食品を口にしてしまう可能性があるということです。
高い濃度の水銀が検出されたゴンドウクジラの肉
太地町幼稚園、小学校、中学校で
ゴンドウクジラの肉を学校給食に使用!
今年(2007年)3月の太地町議会で、昨年10月に地元で追い込み猟によって捕獲されたゴンドウクジラの肉150キログラムが学校給食用に寄付され、その肉が町内の幼稚園、小学校、中学校で学校給食に使われていたことが分かりました。
しかし、3月の時点で、3分の1近い46キログラムの肉が、まだ学校給食に使われずに残っていました。
日頃からイルカやクジラの肉の安全性に疑問を持っていた山下議員らは、3月の議会で、ゴンドウクジラの肉を学校給食に使用することについて問題点を指摘し、安全性を確かめるように発言しました。そして、5月から6月にかけて地元で捕獲されたゴンドウクジラの肉を購入し、自ら厚生労働省の登録検査機関で分析検査を行ないました。結果は前記の通り、厚生労働省の暫定規制値をはるかに上回るものでした。
学校給食では、児童生徒は給食に出されたものをすべて食べるように教育されています。つまり、水銀に汚染されたイルカの肉を学校給食に使うことは、否応なく全児童生徒を水銀禍にさらすことになります。太地で学校給食に出されたゴンドウクジラの肉だけが水銀汚染を免れていたということはありえないことですから、太地の児童生徒が給食によって水銀、メチル水銀を体内に取り込んでしまったことは、間違いないといえます。
子供の健康に無神経な太地町の対応
山下議員らが太地町の全議員とイルカ肉の関係者への水銀検査の結果報告
今年(2007年)6月28日から開かれた太地町議会で山下議員らは、ゴンドウクジラ肉の水銀検査結果や、その問題点を取り上げました。山下議員の質問時には、追い込み猟を行なっている「いさな組合」の漁師や漁協スーパーの責任者など多数の傍聴があったそうです。つまり、6月の太地町議会で、太地町議員だけでなく、太地のイルカの捕獲者、その肉の販売者は共にイルカ肉の水銀汚染とその危険性について、はっきり知識を得たことになります。これで、太地町が今後どのような対応を考えるか、その方法が問われることになりました。
学校給食で消費されてしまった残り約3分の1のゴンドウクジラ肉
いっぽう、3月議会の時点で46キログラム残っていたゴンドウクジラの肉は、山下議員らの問題提起と警告をよそに、分析検査による安全性の確認をすることなく、そのまま4月と5月の学校給食に使用されてしまったことが6月の太地町議会で分かりました。つまり、太地町は、安全性を確かめないまま、すべての肉を児童生徒に食べさせてしまったわけです。太地町は子供の健康に無神経だといわれても、弁解の余地がありません。
本来、太地町は日本有数のイルカやクジラの捕獲・販売地として、厚生労働省がインターネットで公表している暫定規制値を超えて検出された水銀の検査結果について、日頃から注意を払うべきであり、少なくとも厚生労働省が水銀汚染がかなり高いと公表しているゴンドウクジラの肉を学校給食に使って児童生徒に食べさせることを避ける責任があったといえます。ところが、まったく検査をしないで学校給食に水銀汚染の可能性が極めて高いイルカ肉をまわしてしまったことは、行政の怠慢と危機管理のなさを露呈したものといえます。
なお、現在問題にされているのは学校給食ですが、水銀濃度の高いイルカ肉を漁協その他のスーパーで販売すれば、それが各家庭で消費され、当然のことながら、家族の一員である子供たちも水銀に汚染されたイルカ肉を口にすることになります。
子供や妊産婦の健康を考えるなら、厚生労働省で水銀汚染を公表しているイルカ肉を販売店が売ること自体に問題があり、また販売するにしても、まず水銀の汚染度を調べ、その数値を公表し、水銀汚染があることを表示したうえで販売するのが、販売店の責任です。販売するならタバコと同じように危険性を明らかにしたラベル表示が必要といえます。
三軒一高町長及び太地町議会の計画
太地町は、現在太地港にある簡素なクジラ解体処理場を壊して、そこに新しい近代設備の整ったクジラの解体処理施設を建設することを計画しています。建設総予算は、解体工事費も含めて3億3000万円余りです。(この約50パーセントが国庫補助費として水産庁から支払われます。)
しかし、このクジラの解体処理工場の建設は、いくつもの大きな問題点を含んでいます。以下は、この施設の建設目的と、その問題点です。
クジラの解体処理施設の建設目的
この処理施設を建設する目的は、この施設でイルカ・クジラ肉を処理して学校給食に使うことです。太地町はこれまで和歌山県学校給食会を通じて全国の学校給食に南氷洋のミンククジラの使用を推進してきましたが、この施設を使って、追い込み猟で捕獲したイルカを解体し、その肉を全国の学校給食に広めようとしています。
しかし、南氷洋のミンククジラと違って、追い込み猟で捕獲されたイルカ肉からは規制値を超える水銀などの有害物質が検出されており、学校給食はもちろんのこと、一般の食用にも適さないものです。
また、この施設を建設する目的は、イルカの追い込み猟の現地調査に訪れるメディア関係者や、動物保護団体の目から、イルカを解体する現場を隠すためだとも言われています。しかし、イルカ猟を監視し、捕殺の残酷さを批判する機会を閉ざしてしまうことになれば、イルカに対してますます残酷な方法でイルカ猟が行なわれるようになることは目に見えています。
*なお、建設予定の新しい施設は、通常の魚市場としても使用する予定なので、太地町当局は、この施設は「クジラ解体処理施設」というより「衛生型の市場」だと言い逃れの主張をし始めているそうです。
クジラの解体処理施設の問題点
1)国民の税金と太地町民の税金が使われること。
建設総予算は3億3000万円余りですが、太地町にはそれだけの予算がありません。このため、太地町は次のような資金調整でこの資金を拠出しようとしています。
a)国庫補助金:1億6,105万円(18年度605万円+19年度1億5,500万円)
国庫補助金は水産庁が出しますが、これは、私たち国民の税金です。
b)借金: 1億450万円 (借金を返却するのは太地町民です。)
c)税金: a)、b)で足りない額(6,835万円)は、太地町民の税金からの支出です。
2)1)で示したように太地町が2億円を超える国民や町民の税金を使い、1億円を超える借金をしてまで建設しようとしている施設は、町民すべてが使えるわけではない、つまり公共施設とはいえない施設です。クジラ解体処理施設を使用するのは、イルカの追い込み猟を行なっている25名ほどの「いさな組合」のイルカ・クジラの捕獲者だけであり、その恩恵を受けるのは、ほんの一部の限られた町民だけです。税金を負担している者への恩恵は、ほとんどありません。
3)この施設の年間の維持運営費は、260万円と試算されています。しかし、この費用を誰が負担するのかが明白になっていません。山下氏が議会で説明を求めましたが、「今後の課題だ」というあいまいな答弁しか得られませんでした。
4)太地町は、この施設を使って、追い込み猟で捕獲されたイルカ肉を処理して、学校給食に使おうとしています。
現在、太地町は、南氷洋のミンククジラを和歌山県学校給食会を通じて全国の学校給食に普及させていますが、水銀など有害化学物質による汚染の可能性が高い日本沿岸のイルカ・クジラ肉を学校給食に使うことは、極めて危険です。
5)学校給食に使えない汚染された肉は、妊産婦や一般の人に対しても、食品として問題があり、そのような食品を市場に出すことにも、問題があります。健康上の危険を買うために、3億3000万円も拠出して施設を作ることは、無駄なだけでなく、有害な施設を作ることになります。
6)今後明らかにされるイルカ・クジラ肉の汚染度の検査結果によっては、この施設を正常に稼動させることが不可能になります。日本国内で使用できない肉を海外に輸出することはできません。多額の資金を投じた施設が将来ムダになる可能性が高いといえます。
7)健康志向が高い現在、児童をはじめ国民の健康を無視して時代に逆行する施設建設に公費を使い、反対を押し切って建設することは、太地町の評判を国際的に傷つけ、太地町の将来にとってマイナスの効果しか生みません。
本会の活動方針
本会では、数年来、イルカ肉の水銀汚染問題を取り上げて警告を発してきましたが、今後も、この問題を追及していきます。
また、特に、イルカ・クジラ問題に関する政府の税金の使用方針にはひどい偏りがみられます。例えば、イルカ・クジラの捕殺に対して国庫補助金が出ているのに、保護あるいは非致死的なイルカ・クジラ利用への補助金がほとんどないことは、大きな問題だといえます。
地球温暖化の影響が世界的な問題となり、野生動物への影響が国の枠を超えて強まっている現在、日本(太地)の行なうイルカやクジラの捕殺は、もはや国内問題だけでなく、国際的な問題になっています。「太地の追い込み猟は日本の問題だから、海外の人々は黙殺して口をつぐんでいればいい」という考えは、もう国際的には通用しません。同じように、水銀問題についても、海外の学者が、人類への健康危機の問題と捉えて警告を発しています。
さらに、動物愛護や「捕殺はかわいそうだから……」というような理由を超えて、イルカの追い込み猟や捕殺問題を取り上げる人びとや団体が国際的に増えています。本会は動物の立場に立った保護を提唱していますが、環境保護団体として今後も幅広い活動をめざしています。
以上の記事は、山下順一郎太地町議会議員らが発行している活動広報紙「美熊野(みくまの)政経塾」(PDF)と、今年(2007年)9月3日に東京の外国人記者クラブでの山下議員の記者会見、及び7月に行なわれた海外映画企画インタビューをもとに作成されました。
ネットで美熊野政経塾を検索すると、上記に関するさらに詳しい記事が読めます。また、「美熊野政経塾第9号」は、本会に小部数在庫がありますので、必要な方は本会事務局へ電子メールまたは葉書でご連絡ください。(この広報紙は無料ですが、郵送用として宛先を記入した封筒と80円切手を同封してください。) 最新ニュース: 山下議員らは、前述したように、検査を行なったゴンドウクジラの肉に厚生労働省が定めた暫定規制値をはるかに上回る水銀が検出されたため、「ゴンドウクジラの肉の安全性が確認されるまでは、ゴンドウクジラの肉を学校給食に使わないでほしい」と太地町当局へ要請しました。それに対する回答はまだありませんが、三軒一高太地町長は、水産庁に対して「(太地産鯨肉)を学校給食に使わない」といったそうです。ゴンドウクジラの肉の安全性を確認できないということでしょう。 ゴンドウクジラの肉だけでなく、安全性が確認できないイルカ肉は、すべて学校給食には使えないはずです。検査結果によっては、すべての「(太地産鯨肉)を学校給食に使えない」ことになります。 水産庁は、今回、太地産のイルカ肉の全部位を検査することにしたようですが、その結果を公表すると同時に、水銀濃度が暫定規制値を超えている場合は、環乳第99号(*)に則って、販売中止の指導をして、汚染肉が市場に出回るのを防ぐべきです。 (*)昭和48年(1973年)に当時の厚生省が各都道府県知事、政令市長あてに通知した文書で、暫定規制値を超える魚介類は廃棄するか販売中止にするように告げています。) |
ページのTOPへ