太地町によるイルカの売却

March 20, 2006

和歌山県太地町によるイルカの売却に関する背景

 太地町は2006年3月7日の定例議会でハンドウイルカ8頭を中国大連の水族館へ売却することを決めました。昨年(2005年)のイルカ輸出に続く2度目の輸出になります。

 これら輸出用のイルカは、すべて太地漁業協同組合によって追い込み漁で捕獲されたものです。学術目的とされていますが、今回輸出されるイルカは太地町立くじらの博物館が漁協から640万円で買い入れ、約7倍の売値、375,000米ドル(約4,300万円)で輸出されます。太地町立くじらの博物館の財政危機を救済することが主要目的であるとされています。

 公立の博物館である「くじらの博物館」は、社会教育法第9条及び博物館法第2条で社会教育のための機関であるとはっきり定義されています。こうした機関がワシントン条約で取引規制を受けている野生生物を犠牲にして金策に走ることは、許されない行為であるといわなければなりません。

本会が問題にしているイルカの追い込み漁の問題点

1)生態的見地から

 ご存知のように、野生のイルカは群れをつくり結束の固い緊密な社会生活を営んで生活しています。雌の出産は3~4年に1度で、しかもたった1頭を出産します。追い込み漁はイルカが繁殖率の低い動物であることを無視し、雌雄子どもの別なく、群れ全体を入り江や漁港に追い込んで捕獲するため、群れ全体を過度のストレスにさらし、また、傷つけ、群れの構成を破壊します。捕獲枠を超えたイルカは最後に海へ放されますが、そのイルカたちの繁殖や社会構成は、その後、大きな負の影響を受け続けることが考えられます。今回、太地が輸出する8頭のイルカはすべて雌です。雌は雄より攻撃性が少なく扱いやすいため水族館に好まれていますが、このような雌に集中した捕獲は、海へ放されたイルカの群れの繁殖に大きく影響すると思われます。イルカはワシントン条約付属書Ⅱで国際的な保護の対象になっていますが、近年、海洋環境が刻々と悪化していく中で、生息数の減少が懸念されています。

2)倫理的見地から

 イルカは人間と同様に痛みも恐怖も感じることができる哺乳動物です。また、最近の研究で、自己認識ができ、鏡に映った自分の姿を認知することが分かっています。これは、これまで人間と類人猿だけに備わっている能力だとされてきたものです。つまり、イルカは仲間が殺されているあいだ、それを認知し、自分と他の仲間にこれから何が起ころうとしているかに気づいて、極度の恐怖と苦しみを経験するといえます。イルカ漁において、イルカの意識を瞬時に失わせ、迅速に死に移行させることは不可能であり、日本で毎年捕獲され、また、殺されている何千頭ものイルカが、時間が長引く追い込み、捕獲、屠殺の全過程で、激しい痛みと苦しみを経験していることになります。このことから、世界動物園水族館協会は、イルカの追い込み漁を残酷で容認されない方法だと宣言しています。

 1978年にパリで正式に公布され、ユネスコに提出された「動物の権利に関する世界宣言」第3条第2項には「動物を殺す必要がある場合、それは、瞬時にして無痛で行ない、動物に死の恐怖を感じさせるものであってはならない」と記されています。また、「野生動物は、その生息環境において自由に生き、繁殖する権利を有する」(同第4条第1項)とも記載されています。
 
3)歴史的見地から

 世界的に野生動物との共存が模索される中で、クジラ類を殺さずに利用するホエールウオッチングやイルカウオッチングが提唱され、また、経済的にも教育的にもその有効性が認められています。世界の潮流は「イルカ殺し」から「イルカ保護」に確実に移行しています。このため、イルカ類を食用や水族館の展示物として利用することに対して、世界的な批判が高まっています。特に、イルカの肉は、日本国内及び国際的関係機関によって設置された規制限度値を大幅に超えるメチル水銀、PCBなどの有害な化学物質に汚染されていることが証明され、食用に適さないことが多くの学者によって指摘されています。

4)野生動物は世界の共有資産

 野生動物であるイルカは、ちょうど渡り鳥が空を自由に飛んで渡りをするように、広大な海洋を自由に回遊して生活しています。渡り鳥が世界の共有資産であるのと同様に、イルカもまた、保護すべき世界の共有資産とみなされています。イルカを殺戮し、その個体群を危うくすることは、世界の共有資産への侵害に他なりません。

 以上、要約してイルカの追い込み漁の問題点を概観しましたが、イルカの追い込み漁についての詳細は本会のホームページをご覧下さい。


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