カマイルカが捕獲枠に追加
水産庁が14年ぶりにイルカの捕獲枠を変更
新たにカマイルカを捕獲枠に追加
2007.9.23 up
水族館が提案したカマイルカの捕獲追加
カマイルカを追い込み猟の捕獲枠に加える今回の提案は、カマイルカの入手を願う水族館施設が行なったものです。2006年8月16日に日本動物園水族館鯨類会議(内田詮三代表幹事)が鯨類会議に参加している園館長宛に、小型鯨類の入手希望を書き込むアンケート用紙まで付けて内部文書を回し、和歌山県の太地町に働きかけて実現しました。本会は、パブリックコメントを送って上記の事情を説明して反対しましたが、捕獲枠制定に際して、本会の意見はまったく無視されました。
新しく実施される「イルカ猟捕獲枠」の分析
今期から新しく実施される捕獲枠は、捕獲の対象種としてカマイルカが追加されましたが、捕獲枠数全体については、総じて減少しています。しかし、和歌山県太地のスジイルカ、アラリイルカなどについては、従来と同じ捕獲数が保たれています。
表:鯨種別捕獲枠(2007~2008)
県別 漁業種類 |
北海道 突棒 漁業 |
青森県 突棒 漁業 |
岩手県 突棒 漁業 |
宮城県 突棒 漁業 |
千葉県 突棒 漁業 |
静岡県 追込 漁業 |
和歌山 県 追込 漁業 |
和歌山 県 突棒 漁業 |
沖縄県 突棒 漁業 |
合計 |
自県船許認可隻数 | ||||||||||
16 | 8 | 196 | 7 | 11 | 50 | 17 | 100 | 6 | 411 | |
鯨種別捕獲枠 2007~08年 [ ]: 2006年以前の捕獲枠 |
(単位:頭数) | |||||||||
イシイルカ | 1,451 [1,500] |
18 [20] |
6,969 [7,200] |
269 [280] |
- | - | - | - | - | 8,707 [9,000] |
リクゼンイルカ | 98 [100] |
- | 8,054 [8,300] |
16 [20] |
- | - | - | - | - | 8,168 [8,420] |
カマイルカ | - | - | 154 [0] |
- | - | 36 [0] |
134 [0] |
36 [0] |
- | 360 [0] |
スジイルカ | 72 [80] |
63 [70] |
450 [450] |
100 [100] |
- | 685 [700] |
||||
バンドウイルカ | - | 71 [75] |
842 [890] |
95 [100] |
9 [10] |
1,017 [1,075] |
||||
アラリイルカ | - | 409 [455] |
400 [400] |
70 [70] |
- | 879 [925] |
||||
ハナゴンドウ | - | - | 295 [300] |
246 [250] |
- | 541 [550] |
||||
マゴンドウ | - | - | 277 [300] |
92 [100] |
369 [400] |
|||||
オキゴンドウ | - | 10 [0] |
70 [40] |
- | 20 [10] |
100 [50] |
||||
合 計 2007~08年 [2006年以前] |
1,549 [1,600] |
18 [20] |
15,177 [15,500] |
285 [300] |
72 [80] |
589 [600] |
2,468 [2,380] |
547 [520] |
121 [120] |
20,826 [21,120] |
しかし、そうした中で、捕獲枠数を増やした種が1種だけあります。オキゴンドウです。沖縄県の突きん棒猟では、10頭が2倍の20頭に増やされています。また、静岡県富戸の追い込み猟では、従来は捕獲を認められていなかったオキゴンドウ10頭の捕獲が許可され、太地の追い込み猟では従来の40頭が70頭に増やされています。
1996年に伊東市漁協富戸支所は、オキゴンドウを捕らえて水族館へ売却しましたが、このとき、富戸にはオキゴンドウの捕獲枠がなかったため、結局、オキゴンドウの捕獲は違反行為とされ、捕獲されたオキゴンドウは水族館から富戸の海へ返されました。それ以来、下田海中水族館などの水族館がオキゴンドウを入手したいと望んでいることが調査によって分かっています。今回、オキゴンドウの捕獲が新たに富戸に許され、太地には捕獲数の大幅な増加がされた背景には、カマイルカと同様に水族館の思惑が絡んでいるものといえます。
さらに、今回の捕獲枠の変更は、太地町、太地漁協及び「太地町立くじらの博物館」に有利なようになされたという不満の声が他の水族館のあいだで上がっているといわれています。捕獲枠数の表を見ると分かりますが、全体に捕獲枠数が減らされている中で、太地の追い込み猟の捕獲枠数だけは、88頭も増やされています。イルカ類を捕獲して、国内外の水族館施設へ売却することによって太地町の経済を活性化させるという三軒一高町長の意向が反映された捕獲枠数だといえます。
なお、静岡県の富戸にカマイルカの捕獲が許可されたことは、大きな意味を持っています。例年、カマイルカは12月になると群れで富戸沖に回遊してきます。その中にバンドウイルカが混じっていることが、これまで多くありました。しかし、カマイルカの捕獲が許されていなかったため、12月以降のバンドウイルカの捕獲は困難でした。しかし、今期からは、両種をいっしょに捕獲することが可能になり、12月以降のイルカの追い込み猟がしやすくなったといえます。カマイルカは捕獲が難しい種であるといわれていますが、体が比較的小さく、高くジャンプするので水族館が入手を望んでいます。今後、富戸では、水族館が狙っているオキゴンドウとともに、水族館用のカマイルカとバンドウイルカの生け捕りが追い込み猟の主流になるように思われます。
太地のイルカ追い込み猟の猟期:2006年から1ヶ月前倒しの延長
太地でのイルカの追い込み猟の猟期は、従来10月1日からでしたが、昨年(2006年)から9月1日に変わり、猟期が1ヶ月延長されました。今年も猟期は9月1日に始まりました。いっぽう、富戸では、従来からイルカ追い込み猟の猟期は9月1日からですが、例年、イルカ猟はイルカの回遊に合わせて10月か11月になってから行なわれています。
今期、太地漁協は、猟期に入ると同時に精力的にイルカの捕殺を行なっています。これまでに分かっているだけでも、9月1日にハナゴンドウ15頭、9月2日にハナゴンドウ30頭、9月9日前後にゴンドウクジラ(捕獲頭数不明)、9月13日にゴンドウクジラとバンドウイルカ(多数、しかし実際の捕獲頭数は不明)、9月18日バンドウイルカ6頭以上、そのほか2頭は生け捕り、という情報が本会事務局に入っています。但し、実際の捕獲頭数などについては、本会では現在未確認です。
こうして捕殺されるイルカの肉が市場に出て行くことは、消費者の健康の点からみても大問題です。ゴンドウクジラの水銀汚染は現在、太地町内外で問題にされていますが、それだけでなく、バンドウイルカやハナゴンドウについても、高濃度の水銀汚染が立証されています。例えば、ジャパンタイムズが行なった2007年7月17日の分析調査では、ハナゴンドウの肉に検出された水銀は14.3ppmで、厚生労働省が定めた暫定規制値の35.75倍の高さです。いっぽう本会が行なったバンドウイルカの肉には暫定規制値の48倍の濃度の水銀が検出されています。(詳細はこちら)
太地は、これらの汚染肉を獲り続けて、いったいどうするのでしょうか? 汚染肉は食用にできないだけでなく、有害廃棄物に相当し、食用にならない内臓を廃棄することについても、環境を汚染しない処分方法を考慮する必要があります。
余談:
猟期を前倒しして捕獲しすぎたゴンドウクジラが太地にもたらした騒動
昨年(2006年)太地が猟期を前倒しして、せっせとイルカ猟に励んだ結果、太地ではゴンドウクジラが例年より獲れすぎて、太地漁協は「好意から」ゴンドウクジラの肉を学校給食に寄付しました。ところが、すでに本会で調べて発表しているように、ゴンドウクジラの肉の水銀汚染は、厚生労働省の暫定規制値を大幅に超えています。一般人はおろか、学校給食や病院食として危険この上ないものといえます。
水銀検査もせずにゴンドウクジラの肉を学校給食に提供したことに危機感をもった太地町議会議員が、自ら水銀検査に乗り出し、ゴンドウクジラの水銀汚染濃度の高さに警告を発しました。(広報紙PDFはこちら)
政治に携わる公人がこうした警告を発したのは、日本では、これが初めてです。鯨肉、イルカ肉の汚染の発表がタブー視されていたイルカ猟基地の真ん中にメスが入ったといえます。当然のことながら、イルカ肉の水銀汚染を問題にする議員への太地町当局の圧力は大きいものと思われます。「日本政府が定めた水銀の暫定規制値を超える食品は市場に出させない」という私たちの働きかけが、今こそ、特に必要とされています。
私たちにできること:
厚生労働省医薬食品局食品安全部へ、厚生労働省が定めた水銀、PCBなどの暫定規制値を超える食品の販売を中止する要請書を出しましょう。
時間のない方は、下記の見本文をご利用ください。
FAX用PDFファイルダウンロード
要請書発送先: 厚生労働省医薬食品局食品安全部企画情報課
E-mail:
Fax: 03-3503-7965
要請書見本文
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厚生労働省医薬食品局食品安全部企画情報課担当者様: 拝啓 日頃、国民の健康推進に向けてご尽力くださりありがとうございます。 早速ですが、和歌山県太地町及び静岡県富戸で行なわれているイルカの追い込み猟で捕獲されたイルカ肉(ゴンドウクジラ、ハナゴンドウ、バンドウイルカなど)に厚生労働省が定めた暫定規制値を大幅に上回る水銀が次つぎと検出されています。(*) ご存知のように、水銀の人体への蓄積は市民の健康を著しく損なうものであり、特に妊産婦家や児童への影響が世界的に指摘され、また、危惧されています。 国民の健康を考え、食品の安全をめざす貴機関に次のことをお願い致します。 1)水銀その他有害物質が日本の定める暫定規制値を上回った食品(イルカ肉・クジラ肉を含む) 2)市場に出す前に、イルカ肉の水銀、PCBなどの検査を販売店に義務付けてください。 3)その前段階として、1)2)が達成されるまで、イルカ肉を市場に出す条件として、パッケージに、「この食品は暫定規制値を超える水銀が含まれている可能性があります。水銀は人体に蓄積され健康を蝕む恐れがあります」と表示ラベルをつけることを義務付けてください。 敬具 住所・氏名 (*)イルカ肉・クジラ肉の水銀汚染についての参照 サイト: |