ブルーム市と太地町
オーストラリアのブルーム市が和歌山県太地町との姉妹都市関係を解消
今年(2009年)8月22日、ブルーム市の市議会は、全会一致で、太地町との姉妹都市関係を解消することに決めました。
これまでの経過
昨年来、ブルーム市の動物・環境保護団体や一部の市民が、姉妹都市関係を結んでいる太地町でイルカの追い込み猟を行なっていることを問題にしてきました。特に、昨年12月始めに西オーストラリア新聞が太地町のイルカ追い込み猟の特集記事を掲載した後、世論調査で、市民の89パーセントが、太地町との姉妹都市関係を続けることに反対していることがわかりました。こうした市民からの反対圧力を受けて、グレイム・キャンベル行政区(州)長官(市長に相当する役職。以後、市長と表示)は、この問題を2008年12月17日の市会議でとりあげ、その決定を昨年内に太地町に送りました。その決定内容は、”太地町によるイルカ猟に遺憾の意を表し、太地町がこのままイルカ猟を続行するならブルーム市議会は太地町との姉妹都市関係を解消するようにと求められている”というものでした。しかし、これまで、キャンベル市長は、「ブルーム市の先住民はカンガルーやジュゴンやカメを食料にしているから」という的外れな言い訳をして、国際的に問題になっているイルカ猟の自粛を、姉妹都市として、太地町に呼びかけることには消極的で、この問題を先延ばしにしてきました。
しかし、今年の夏、現在国際的に話題が沸騰している記録映画「The Cove(入江)」が、ブルーム市で上映されると、一般市民から同市のこれまでの優柔不断な態度に抗議する手紙のほか1日5,000通ともいわれる大量のE-メールがブルーム市に殺到しました。
この記録映画は、水銀問題を取り扱うと同時に、太地町が行なっているイルカの追い込み猟を取り上げ、これまで秘密裏に行なわれていたイルカ猟の実態を映像で記録したものです。その結果、太地町でのイルカの追い込み猟は、地元漁師や日本政府が説明するものとは大違いであることがわかりました。子どものイルカを殺しているだけでなく、その捕殺方法は見るに堪えない残虐なもので、網に閉じ込めたイルカを槍で何度も突いたり、噴気孔に金属の棒を差し込んだりして殺していることが判明しました。また、イルカが2時間も苦しんで死んでいくことも映像で証明されました。これまで太地町の漁師は、「イルカの子どもは絶対に殺していない。人道的にイルカを扱い、瞬時に殺している」と主張してきましたが、それが「うそ」だったこともはっきりしました。
こうしたことから、キャンベル市長は、去る8月22日の市議会で、再度、太地町との姉妹都市関係をどうするかという議題を取り上げ、「太地町がイルカ猟を続ける限り、姉妹都市関係を続けることはできない」という決定が全会一致で出されたのでした。
ブルーム市の決定に対するSaveJapanDolphins連盟の声明
上記の決定を受けて、2日後の8月24日、SaveJapanDolphins連盟は、リチャ-ド・オバリー代表と共にキャンベル市長の決断を讃える声明を発表しました。オバリー代表は、ブルーム市のキャンベル市長と市議会を讃えて、「私たちは行政区責任者(市長)のとった行動に感動している。これで、イルカの虐殺阻止に一歩近づいた。ブルーム市の選択は歴史的にみて、正しいものであり、市長に感謝している」と述べました。連盟のメンバーであるアースアイランド研究所国際海洋哺乳類プロジェクト代表のデイビッド・フィリップスは「日本の人々が記録映画
“The Cove”を見て、秘密裏に行なわれているイルカ殺しを知れば、虐殺を止める助けをしてくれるだろう」と語っています。また、動物擁護の会代表のエリオット・カッツ博士は、「ブルーム市議会のとった行動は、あのような知的な動物が虐殺されるのを見て、深く心を痛めたことによる」と語り、動物福祉協会のスーザン・ミルワード代表は、「私たちは、ブルーム市議会に、また、日本のイルカやクジラの保護をブルーム市に訴えてくれた、オーストラリアと世界の人々に感謝している」と述べています。
今後の課題
ブルーム市は、太地町がイルカの追い込み猟を中止すれば、姉妹都市関係を復活させたいと望んでいますが、今後の関係をどうするかは、太地町次第だとしています。
なお、ブルーム市がイルカの追い込み猟を問題にするのは、“その捕殺の数ではなく、捕殺の方法であり、また、太地町が水銀に汚染されていると知りながら、追い込み猟で得たイルカの肉を市場に出し続けていることである。”と発表しています。つまり、ブルーム市はイルカの追い込み猟について根本的な変革を求めているのです。
いっぽう、太地町では、まだ通知を受け取っていないと発表し、コメントを避けています。しかし、この先、太地町がイルカの追い込み猟を続ける限り、太地町と姉妹都市関係を結ぼうとする都市は現われないことでしょう。これは、海外と文化的交流を望む太地町の児童や学生たちにとって、かなり深刻な問題であると思います。この際、太地町では、なぜこういう事態が起こったのかについて、子供たちに考える機会を与えることが必要と思われます。単に「反捕鯨団体の圧力だ」とか「食文化の違いを理解されない」などと、これまでの主張を繰り返すだけでは、解決になりません。今回の事態は、ブルーム市民の意図によって生じたことで、「食の安全問題」、「命の尊厳に関する問題」など、考えるべきことが多々含まれています。太地町が将来のある子どもたちに偏った教育をすることがないよう願っています。
イルカの追い込み猟は、日本政府(水産庁)、和歌山県、太地町が連携して行なっているものです。水産庁が捕獲枠を決め、和歌山県が許可を出し、太地町の漁師が実施しています。”The
Cove”の監督のインタビューに対して、水産庁は、太地町の漁師と同様の回答をしています。水産庁と和歌山県は、イルカの追い込み猟の実態を把握していないのか、それとも、知っていて黙認しているのか、そのいずれにしても、この問題に対して重大な責任があります。
日本政府は今後の国益を十分考慮に入れて、この際、イルカの追い込み猟の存在を再検討し、太地町の漁師だけに損失を負わせることがないよう、国の責任においてこの問題に介入すべきです。
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