パブリックコメントへ意見


追い込み猟にカマイルカを追加する!?
水産庁がパブリックコメントを募集

2006.12.8 up

今年(2006年)10月30日に、水産農林省水産庁が、追い込み猟の捕獲枠にカマイルカを追加することに関するパブリックコメント(一般人からの意見・情報)を募集しました。(締切日:2006年11月28日)
これを受けて本会では、以下のような意見・情報を、資料を添付して発送しました。こちらの記事もご参考ください。


〒100-8950 東京都千代田区霞が関1-2-1
農林水産省水産庁資源管理部遠洋課
担当 諸貫様、増田様
ファックス: 03-3591-5824

写:メディア各位

エルザ自然保護の会
藤原英司(会長)

拝啓

「指定漁業の許可及び取締り等に関する省令第八十二条第一項ただし書きの規定に基づき農林水産大臣が別に定めて告示する歯鯨(平成13年農林水産省告示第564号)の一部改正案」について、以下の通り意見及び情報を提出しますので、本件決定について、再考慮をお願いします。

趣旨:カマイルカを漁業の対象として捕獲枠に追加することに、強く異議を唱え、反対を表明します。

その理由:

1)告示の趣旨のなかに、「近年、漁業者から捕獲枠の設定について強い要望がある」ためカマイルカを捕獲枠に追加するとあります。

これを読む限りでは、漁業者一般が漁業行為としてカマイルカの捕獲を望んでいるかのように受け取れます。しかし、カマイルカ捕獲の要望は、じつは、日本動物園水族館鯨類会議から出されたものです。さらに、ここでいう漁業者は、漁業者一般ではなく、太地町の勇組合に属する、極めて限られた漁業者です。

2)2006年8月16日に日本動物園水族館鯨類会議(内田詮三代表幹事)から鯨類会議に参加している園館長に送られた事務連絡文書(参照:同封のコピー)には、以下のように書かれています。

つまり、カマイルカは入手が困難で、入手を希望する園館に行き渡っていないが、「太地ではカマイルカは捕獲許可を得ていないため追い込みは認められていない。しかし、太地においてカマイルカの捕獲が可能になれば、鯨類飼育園館にとっても、漁業者にとっても双方にメリットがある」と書かれており、第8回日本動物園水族館鯨類会議申込書と題して小型鯨類の入手希望アンケート用紙(参照:同封のコピー)が、この文書に添付されています。

これは、カマイルカの入手を願う水族館施設が、太地町に働きかけて追い込み猟(*)でカマイルカを捕獲させ、太地町漁業者と共に、その利益に与かろうというもので、こうした野生動物を巡る「商取引」には、多くの問題点があります。

(*)クジラ・イルカ類は空気呼吸と授乳育児を行なう哺乳類であることから本会では「イルカ漁」ではなく、「イルカ猟」と表記しています

以下に主要な問題点を列挙します。

  1. 現在、生け捕りにされる水族館施設用のイルカ類は、肉に加工されるイルカ類より遥かに高値で取引され、さらに、こうして水族館に購入されたイルカは、「学術目的」という名目で、購入時の約7倍という価格で中国などに売却されています。これは、いわゆる「イルカ転がし」に他ならず、社会教育法第9条及び博物館法第2条で社会教育のための機関であると定義されている教育施設(具体的には「太地町立くじらの博物館」)が野生動物を犠牲にしてこのような「金儲け策」に走って経営難を解消しようとすることは許されないことです。これに対して地元の人々や町議会議員のあいだにも強い反対が起こっています。カマイルカを捕獲枠に加えることで、「学術交流」を名目にした「イルカ転がし」がさらに増えることが予想されます。
     
  2. 上述の日本動物園水族館鯨類会議の事務連絡文書にもある通り、カマイルカ捕獲は、追い込み猟によって行なわれます。しかし、イルカの追い込み猟には、多くの問題点があります。(参照:同封のちらし「本会が問題にしているイルカ追い込み猟の問題点」)
     
  3. ご存知のように、イルカの追い込み猟については、自然・動物・環境保護団体による世界的な強い批判がありますが、これとは別に、世界動物園水族館協会(WAZA)が、イルカの追い込み猟は、同協会の倫理規範(Code
    of Ethics)に違反するものであるとして、猟の中止を求めると同時に、世界動物園水族館協会(WAZA)に加盟する世界各国の水族館に、追い込み猟で捕獲したイルカを購入しないように警告しています。(参照:WAZAの会長が加盟団体に送った書簡のコピー)つまり、イルカを飼育する水族館内部からも、イルカの追い込み猟に批判が高まっています。
     
  4. 現在、200名を超える世界の海棲哺乳類専門家等が、科学的見地からイルカの追い込み猟に異議を唱え、中止を要望する署名を行ない、学問的な声明を出しています。(一部ですが、本会が入手した文書のコピーを同封します。)
     
  5. 日本動物園水族館鯨類会議の事務連絡文書には、「バンドウイルカの捕獲枠は増える見込みはなく、資源管理をしていく必要がある」「持続的にイルカが供給できる方策」をたてることが必要であると記されています。つまり、バンドウイルカは、これまでの捕獲によって、将来の安定供給のために、捕獲を控える必要が出てきたということです。告示の趣旨には、カマイルカは現在、「持続可能な利用を行なうのに十分な資源量がある」と記されていますが、水族館が強く入手を要望しているカマイルカが捕獲枠に加えられれば、カマイルカにもバンドウイルカと同様なことが起こることが十分予想されます。
  6. カマイルカ捕獲を実施しようとしている太地町の現状:
    ご存知のように太地町では、今年、これまでの猟期を1ヶ月前倒しにして、9月からイルカ猟を始めました。これは、太地町が他の水族館に先んじてイルカ類を入手するためだといわれています。

    「太地町立くじらの博物館」は2005年、太地町民や環境・動物保護団体の反対を押し切ってハンドウイルカ8頭を中国の水族館へ売却しましたが、そのハンドウイルカの売値は、買値の7倍で、1頭につき約520万円、8頭で総額40万米ドル=約4,160万円という「国際的な学術交流」とは程遠い取引でした。さらに今年(2006年)5月、「国際的な学術研究」を名目に、太地町立くじらの博物館は太地町の漁協から640万円で買い入れたイルカを約7倍の375,000米ドル=約4,300万円で中国に売却しました。太地町立くじらの博物館の財政危機を救済することが主要目的であるとされています。なお、輸送前に1頭が死亡したため、今年、実際に売却されたイルカは7頭でした。

    今期、例年より1ヶ月早く猟を開始した太地町の漁協から、太地町立くじらの博物館は、またもや水族館への転売を予定して、かなりの頭数のイルカを買い上げています。本会が入手した情報によると、その数はコビレゴンドウ4頭、オキゴンドウ10頭、ハンドウイルカ22頭(内2頭は子ども)、マダライルカ3頭に上ります。しかし、くじらの博物館はこのうち、すでにコビレゴンドウ1頭、オキゴンドウ1頭、マダライルカ2頭を死亡させ、また、生簀内のコビレゴンドウ3頭には、現在、脊椎に障害が現れています。

    現地の視察から、購入されたイルカやゴンドウの類が小さく区切った生簀にとじこめられ、あるいは、さびの浮き出た狭小な水槽に閉じ込められていることが分かっています。また、同博物館が買い入れたバンドウイルカの子どもは、訪問者の目が届かない建物の陰に設置された狭い簡易プールで強制給餌を受けています。このような事態は「野生動物の保護」とか「学術交流」とかいう以前の問題で、仮にも教育施設を謳っている施設がするべきことではないと判断します。このような目先の利益に捕らわれた行為は、非教育的であるばかりか、紛れもなく動物虐待にあたります。
     
    日本動物園水族館鯨類会議の事務連絡文書から分かる通り、カマイルカの捕獲とその利用は、太地の漁協を通して、太地町、つまり太地町立くじらの博物館が中心になって行なわれます。こうした現状の中で、カマイルカを追い込み猟の捕獲枠に加えることは、上述の狂態を助長し、野生動物の搾取と虐待を進めることになります。

以上の理由により、カマイルカを捕獲枠に加えることに反対し、本件の再考慮をお願いします。

敬具

同封物:
1)2006年8月16日に日本動物園水族館鯨類会議から鯨類会議に参加している園館長に送られた事務連絡文書コピーと第8回日本動物園水族館鯨類会議申込書と題した小型鯨類の入手希望アンケート用紙のコピー。

2)WAZAの会長が加盟団体に送った書簡のコピー

3)海棲哺乳類専門家等によって、科学的見地からイルカの追い込み猟について書かれた意見声明コピー

4)本会のちらし「本会が問題にしているイルカ追い込み猟の問題点」のコピー。


水産庁資源管理部遠洋課によれば、カマイルカの捕獲枠追加は、来年度(2007年)のイルカ猟の猟期開始時から実施されるということで、現時点(今年12月4日)では、捕獲枠頭数や実施場所についての詳細は決っていないとのことでした。

現在、イルカの追い込み猟は和歌山県太地町と静岡県富戸で実施されていますが、富戸では、例年12月になるとカマイルカが群れになって姿を現わします。カマイルカとともにハンドウイルカも富戸沖へ回遊してきますが、カマイルカが捕獲枠に入っていないため、捕獲対象のハンドウイルカだけを選んで捕獲することは難しく、結果として、追い込み猟がしにくい状態になっています。しかし、カマイルカが捕獲枠に追加されると、この歯止めがなくなり、 追い込み猟がしやすい状態に変わる事が予想されます。

パブリックコメントの募集は終了しましたが、カマイルカの捕獲も含めて、追い込み猟中止に向けて意見を送り続けることが必要です。

宛先は:〒100-8950 東京都千代田区霞が関1-2-1
農林水産省水産庁資源管理部遠洋課
ファックス: 03-3591-5824

お知らせ

パブリックコメントの募集から約3週間後、水産庁は「今回の意見・情報の募集結果による公表した案の変更はない」と発表しました。つまり、今回改正案についてパブリックコメントを募集したが、それを読んだ結果、政府案を変更する必要はないと判断したという発表です。変更しない理由は、例によって、イルカ猟は「科学に基づいた持続的な利用」であり、イルカを食べることは日本の「食文化・伝統」であるので尊重するべきだという、水産庁のおきまりの見解でした。本会が出した告示改正への反対意見は、まったく無視されました。

今回の改正内容であるカマイルカの捕獲枠追加は、もともとイルカ肉の「食文化説」とは関係がなく、水族館がイルカを生け捕りするために政府に働きかけた結果の改正案でした。端的にいえば、「ハンドウイルカが少なくなってきたのでカマイルカを代わりに捕まえたい」という水族館の意向(*)を受けてなされたものです。意見・情報を募集するなら、出された意見・情報に真摯に耳を傾けるべきであり、都合の悪い意見に対しても、まじめに回答すべきです。パブリックコメントは、国民の意見を聞いたという口実を作るためのものではないはずです。

カマイルカ捕獲枠への追加で、イルカを生け捕りにすることは、イルカが生きて捕らえられるだけでなく、当然のこととして捕獲作業中に怪我をしたり、死んだりするイルカが沢山出て、その肉が人間の食用に回されることが、考えられます。今回の水産庁の発表ではイルカの肉を食べることが日本の食文化であるとしていますので、死んだイルカは肉として利用すればいいと水産庁が考えていることがはっきりしたと言えます。イルカの肉が本当に日本の食文化であるかどうかは大いに疑問のあるところですが、それはさておいても、イルカ肉が水銀などの有害化学物質によってひどく汚染されていることが大問題になっているさなかに、イルカの捕獲枠を拡大することによって、イルカ肉の販売をも奨励するかのような今回の水産庁の計画は、国民の健康維持さえも無視した暴挙であると言わざるを得ません。

なお、上記の水産庁の発表は以下のホームページに掲載されています。
http://www.maff.go.jp/www/public/cont/20061219Kekka_1b.pdf
(*)参照:日本動物園水族館鯨類会議平成17年8月16日事務連絡書

参考:水産庁が14年ぶりにイルカの捕獲枠を変更 新たにカマイルカを捕獲枠に追加

 

 

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